雑文

思いついたことを

55歳の童貞

僕の知人で現在55才で多分、童貞だろうと思われる人がいる。ここで仮に名前をヨシオさんとする。確か15年くらい前には彼は自分で童貞と語っていて、それから女性関係があったと聞かないので、まず間違いなく今でも童貞だろう。尚、ヨシオさんは人権や性差別の意識に敏感なので、風俗などで金で女性を買うことは考えられない。

思えば20代や30代の初めの頃までは、友人たちの間で童貞というとからかいの対象になった。自分から童貞だとおおっぴらに告白するのは勇気が要ることだった。

ちなみに僕も童貞にもかかわらず、自分が童貞でないようなフリをしたことは何回もある。「お前はやったことあるの?」と訊かれるのが何よりも恐ろしかった。そういうことは90年代の大学生ではごく普通のことだったと思う。

しかし、内気で自分に自信がない我々のような男たちも次第に恋人ができたり、できないまでもセックスの相手をしてくれる女性が現れたりして、多くが童貞を「卒業」していった。(僕もその中の一人である。)

かつては「オレ、ドーテーww」と童貞を売物にしていた友人はシャイではあったが、コミュニケーション能力があったので30才の頃に卒業し、その後は自信をつけて何人もの女性と性交渉をするようになった。

そうやって年を重ねるにつれ、皆、童貞でなくなった。そこで、女性とうまくコミュニケーションが取れず、セックスはしたいものの風俗には抵抗がある一握りの男たちが残された。

人は30代くらいになり、仕事やその他のことで忙しくなってくると、周りの人々の性体験の有無なんてどうでも良くなる。童貞だからといって20代の頃のようにからかう人なんてまずいない。むしろ恋愛で手ひどい傷を負い、セックスでも失敗と幻滅の体験をしてしまうと、未体験の人のことが羨ましくなってしまう。恋愛やセックスに無邪気に無条件にロマンチックな気持ちを抱けたあの頃に戻りたい。

55才童貞のヨシオさんはただシャイなだけで実直で良い人である。彼の自慢は学生時代に同級生の女子から恋愛の告白をされたことで、「君はされたことある?」と僕に訊いてきてないと答えると嬉しそうに「だろうなー、でもオレはあるもんねー」とニヤリと笑う。そして、その時に断ってしまったことを30年以上後悔しているのである。

これまでたくさんの女性との出会いがヨシオさんにはあった。またヨシオさんは酔うと「うちの娘がかわいくてねー」などと妄想を真面目な顔をしてよく語っていた。しかし、彼はあまりにシャイだった。

人生は何が起こるかわからない。でも、今後55歳のヨシオさんの人生に恋が実ることはないだろう。ヨシオさんには申し訳ないが、「しくじり先生」として彼の人生が若い人に何かの教訓になれば幸いである。