雑文

思いついたことを

高3のときの年末年始の思い出

高校3年生の年末、僕は大学受験を控えていた。しかし当時、僕は同じ部活の一つ学年が下の女の子に恋していて、彼女のことで頭がいっぱいで、告白するかどうかでずっと悩んでいて、ぜんぜん勉強に身が入っていなかった。

そんな年の大晦日、友人たちと初詣に出かけた。大きな神社には人がいっぱいでお参りの列に並んでいる間に年が明けた。そんなこんなで自転車で家に帰ったのは夜中の3時頃だったろうか。

当時、実家では元旦は家族そろってお屠蘇を飲み、餅を食べるのが決まりだった。でも僕は初詣で疲れて昼まで寝ていた。母から起こされたが、眠いからとそのまま寝ていた。

そういうことがあった、もうすぐ冬休みが終わる1月のある日、父から「お前は受験をすると言いながらまったく勉強をやってない。そんなので受かる大学があるのか、受験なんかやめちまえ。家から出ていけ」と物すごい剣幕で怒鳴りつけられた。父の怒りには元旦の朝に僕が恒例の朝食をバックレたのが背景にあるのは明らかだった。

グータラしていたことについては何も言えない。何しろ女の子のことで頭がいっぱいで勉強はろくにやってなかったのだから。しかし父の言うことは正論と認めても、僕も悩みが爆発しそうなくらいに膨れあがっていたから簡単に謝るわけにもいかなかった。

僕は恥と怒りの涙をためながら家を出た。自転車で4キロさきの駅まで行き、東京方面の国鉄に乗った。これまで東京には独りでホール・アンド・オーツのコンサートに武道館にいったことがあったから、行き方はわかっていた。

最初に降りた駅は新宿。田舎の高校生でも歌舞伎町は知っていたから、好奇心で行ってみたのだ。風俗店の前で中年の男が呼び込みをしており、「そこのお若い方もどうぞ」と声をかけられた。金もなくウブな高校生が風俗店に入れるわけもなく、1時間くらい日本で一番の歓楽街をぐるぐる歩き続けた。公衆電話から家に電話をかけたら母が出た。友達のところに泊まると伝えた。

終電が終わる頃に地下鉄で有楽町まで行った。なぜ有楽町だったかというと、有楽町マリオンという建物に大きな映画館があると新聞で読んでいて、そこならオールナイトで映画を上映しているだろうから、そこに泊まろうと思ったのだ。しかし、マリオンに行ってみると全館しまっており、びっくりした。

もう地下鉄も山手線も終電を過ぎたので、仕方なく僕は夜の銀座の街を歩いた。銀座は歌舞伎町と違って整然と区画整理されていて、バーの前に着物を来たお姉さんと高そうなスーツを来た男たちがたくさんいた。夜の3時になるとさすがに銀座の街も人通りがほとんどなくなった。むちゃくちゃ寒くてひもじくて、深夜営業の吉野家で生まれて初めて牛丼を食べた。

そのうち地下鉄が動く時間になり、僕は丸ノ内線の始発に乗った。僕の前の席には新聞の束を持ったアルバイトの大学生が二人座った。始発電車に乗っている高校生の僕を二人は不思議そうな顔をして見ていた。僕も本当は昨夜からの父親との喧嘩と僕の悩みついて彼らに聞いてもらいたかったのだが、内気な18才にはそれはできない相談だった。そうやって僕の小さな冒険は終わった。